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 甘い恋の日で有名になりすぎた本日、バレンタインデー。好きな人や恋人に関係なく、今では様々な人が様々な関係で甘いものを送り合っている日とも云う。それは日常とは違う非日常のように見えて、表は日常という何でもない一日。
 聖ルドルフ学院はエスカレーター式であるため、勉強を疎かにはしないが受験という概念もほぼ存在しておらず、よって部活の引退も遅い。試験に打ち込みたい者は部活の免除もできるが、テニス部の顔ぶれは変わらないまま今日も一日を終えようとしていた。
 少しずつ遅くなりつつある陽もすっかり落ち、寮での夕食も済ませ、それぞれが部屋に戻りつつあるかというタイミングでその男は現れた。

「なんですか、これ」

「何って、今日がいつか考えたら分かるだろうが」

 流石に理解できないわけではない。あまり意識していなくても2月の14日がバレンタイデーなのは変わらない。いかにも高級そうな紙袋から見えているのは手のひらサイズくらいの高そうな包箱だ。

「これは、部活メンバーの皆で食べていいんですか?」

「んなわけあるか、テメェのだよ」

 まぁ、そうだろうなとは察していたのだが、あえて聞いてあえて告げられる。

「それならお断りします」

 というのなら、あえて断ろう。一度渡された包を、前に出す。
 案の定、やってきた男は不服そうな顔をする。

「あん? 俺の差し入れは食えねぇって事かよ」

「そうではなく、こんな高級なもの……お返しが思いつきませんし」

「そんなものいらねぇよ」

「貴方がいらなくても僕が気にしてしまいます。今日も全て、丁重にお断りしたんですよ」

「ふーん、そうかよ。まぁいらないならそれはそれで、他の奴らにでも配れ」

 押しても駄目な事くらい、この男はすっかり学習してしまっている。手土産にしたものを持って帰るような選択は、格好がつかないとでも思っているのだろう。特段、誰かに渡すつもりもないのだが、捻くれている自分はこれくらいでも言わないと受け取れないのだ。好きでこうなったわけではないのだが。

「わかりました。んふ、それならありがたく受け取っておきましょう」

「そうしろ」

 甘いもの自体は嫌いではないのだ。この男が持ってくるからには悪いものでは絶対にないだろう。暫くお茶請けには困らないというものだ。嬉しいかと聞かれたら、それは嬉しい。

「しかし、貴方もマメですね。こんな世間のイベントごときに乗って振り回されているとは」

「まぁな、そう悪くはねぇぜ」

「そもそも貴方が配る意味とかあるんです?」

 女性が男性に贈る日だという考えはないが、どちらかと言えばこの男はあげる日ではなく貰う日だろう。それくらいは察しがつく。今日もどうせ大変な人気だった事だろう。
 しかし、そんな事には目もくれず、やる事が終わり次第こちらに来たのだろう。それも計画的に、だ。
 妙に機嫌よく男が笑む。

「普段、気軽に物もやれない奴らに贈り物をする口実になるだろ?」

「ああ……なるほど」

 要するに自分とか、普段から全く物欲がなさそうな人物……手塚国光あたりだろうか。与えたがりの跡部にとって、相当やりにくい相手なのだろうな、とは思う。

「じゃぁな、会えて良かったぜ。GoodNight」

 すっと伸びてきた手が優しく横髪にかかり、そのまま頬を撫でて離れていく。その間、3秒。

「は。」

 思わず漏れかけた声を留めて、固まる。
 一度も振り向かず、そのまま軽く手をひらひらさせて外に出ていく男を、そのまま唖然と見送った。
 いやいや、この雰囲気は甘すぎる。こういう時ばかりは、素直に黄色い悲鳴をあげられる女子生徒が羨ましい。やたら満足げに夜に消える背中は、相変わらず堂々としており、思わず舌打ちするところだった。

「だから嫌なんですよ。キザったらしい」

 気を許したつもりはないのだが、いつの間に不機嫌ではないと見破られていたのだろうか。顔に出てしまっていただろうかと思い返す。あの男のことだ、僅かな変化も目ざとく気づいていたのだろう。
 ただ腕の中の紙袋見て、一息つく。そう、甘いものに罪はないのだ。





久々にシーズナルものを書きました。
基本的に誕生日も祝い事も全スルーなんですが……
今年は跡観の年なので!!!(と、勝手に思っている)

相変わらずつきあってない跡観を書いて楽しんでいます。
跡部はな、観月さんが嬉しそうにしてくれたらそれで満足だったって話ですよ。

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