小ネタぶっこみ場 たらたら会話してるだけのシンユナ(マギ) 忍者ブログ
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「わかった。お前が俺のことを好きになれば良いんだ!」

「は???」



だって、底なし沼だと知っているから




 突如、部屋に響いたその台詞に、思わず変な声を返してしまった。
 いや、でも実際意味はわからない。誰が?誰を?好きになるだって?

「だったら、嫌でも気になって、俺のマギになるだろ?」

 呆れてものも言えないが、ちゃんとツッコミを入れておかないと誤解を生んだままになってしまう気がして言葉を挟む。

「ならないよ。なるわけないじゃない」

 だって、既に自分は目の前の彼のことが好きだからだ。本人には決して言わないが。
 これが愛か恋か聞かれても正直言ってわからない。
 もっと違う感情かもしれない。思慕、忠愛、親愛、恋愛、家族愛、一体どれなのだろうか。そもそもどういう『愛』という定義に含まれているかもわからない。
 ただ一つ言えることは、その沼に落ちきったら終わりだということだ。片足浸かっているだけで既にマズいというのに。

「なんでだよ。俺も今や一国の王だぞ? 幸いにして正妃もいない。通っている綺麗なお姉さんがいっぱいいる店ならあるがな! 見た目も性格も財力も、未来の生活に関しても完璧だ! おそらく世界の『愛人になりたい男』TOP3には入るだろう俺を拒む理由がどこにあるんだ!?」

 そもそもそんなランキングはない。と心でツッコミながらも平然と言い返す。

「まず僕は男、君も男」

 愛人にはなれるとしても、妃になることはできない。

「性別の壁なんて瑣末なもんだろ。美女を囲う権力者は過去に沢山いただろうが、美少年や美しい男を囲った権力者だっていただろう。何もおかしくないし困らないじゃないか」

 まあ、そうだ。性別は大きな理由にはならない。そんなもの趣味や嗜好でどうとでもなる。きっぱりと男色を知らしめている有権者だって世にはたくさんいる。
 しょうがない、次だ。

「次に、お生憎様だけど僕は権力にも金にも名誉にも女にも恋にも興味がない」

 要するにシンドバッドの持っている『世間で価値があるもの』はユナンにとって大した価値がない。寧ろ避けていたいくらいだ。
 権力は過去に何度も掌握したが、それは振りかざすべきものではなく民の安寧のために使うものだ。だが、必ず暴走して破滅した。
 金なんてものは、その時に買いたいものが手に入る分だけ持っていればいいし、欲しいものは大概自分で生み出せてしまう。
 名誉なんて、そもそも眼中にもない。できば『大峡谷のマギ』という異名すら欲しくないレベルだ。
 女性は嫌いではない。だが、かつて女性だった自分は、今は女性を性的対象としては見ていない。

「だよなー。そういうの欲しかったらジュダルやシェヘラザードみたいな位置についてるよな。その力があれば余裕だろうし」

 返答を聞いて面白くなさそうにシンドバッドは鼻で笑う。

「最後に、僕がマギだから、だよ」

 これが最後にして真実の理由だ。自分はマギだ。ゆえに誰かに固執するわけにはいかない。王を選んではならない。誰にも言わない、否――言えない己の誓い。此度の人生はマギの本能を抑えると決めた、人間としての理性を信じると決めたのだ。

「なんだよそれ。マギは恋愛をしてはいけないとかいう制度でもあんのか? どこの奴隷だよ」

「違うよ、シンドバッド。誰に決められたわけでもない。他でもない僕が、そう決めたんだ。自分で自分を戒めるために。過去の過ちを二度と繰り返さないように」

「……。なんだよ、それ」

「かつて僕は恋をして、愛をして、そして道を過った。今となれば、最初は些細なことだった。けれどその綻びは国を破滅させる大きなヒビに至った」

 王を裏切ろうと思った事などない。愛する者を裏切ろうと思ったこともない。けれども、時に人は間違い、勘違いし、思いを違え、行き違い、そして歯車が狂う。

「知っているかい、シンドバッド。人が争う主な理由はいくつかあるけど、一つは愛だよ。時に愛は人を殺す。信じる人の為に、愛した者のために、殺人の業を正義に置き換えられる。あとはそうだね、金とか名誉とか権力もかな? だから、僕は全てを持っている君が怖いよ」

 先程、提示された全てではないが、それらは簡単に人を狂わせる。自分に正義があると信じ「人を殺めてもいい」と思わせてしまう力があるのだ。
 シンドリアも、この先は綺麗事だけでは生きていけないだろう。いや、既に生きていないだろう。国家とはそういうものなのだ。

「なんだよそれ、駆け出しの王じゃない俺だったら良かったっていうのか」

「さあね。マギだから、可能性を秘めた人物が気になってしまうのは確かかだけれど」

「ちぇ。ならどうしようもないじゃないか」

「そういうこと」

 面白くなさそうにしているシンドバッドを見て、ユナンはさもありなんという風に、目を伏せて笑う。分かればいいのだ、分かれば。

「じゃ、次の手を考えるかー」

「っ!」

 だが、返ってきた言葉はいつもの調子だった。
 まだ諦めないつもりなのか、この王は。
 わりと毎回、こっ酷くフっていると思うのだが。

「懲りないね、君も」

「お前も頑固だよな」

「お互い様にね」

 吸い込まれないように気をつけなければ。
 沼に足を取られないように、風のように自由に、水のように柔軟に、炎のように揺らぎながらも、公正な目線で物事を見極め続けられるように。
 それでなくとも、半年も会わないだけで、孤独に耐えられず、淋しさを埋めるように顔を見に来てしまうのだ。もしかしたら、もう既にかなりマズいのかもしれない。





相変わらずシンドリアのドバ氏のところに来てしまうユナンさんの話。
それはもう呪いであり、本能であり、唯一寂しさを紛らわす手段でもあり、中毒に近い。
本人もそれを自覚しており、あくまで本能を自覚した上で理性を働かせている状態。
それがずっとずっと続くんだなぁ……と思うと、この時間が幸せなのか、308夜後が幸せなのか
なんかわからなくなってきますよね。
不幸な人だいすきな私だから、それでいいんだろうけど。
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