ひなさんの小説以下の小ネタを放置するところ ↑旧 ↓新
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申老の短いお話
「こうやって顔を近づけたら、ほら……ドキドキとかしませんか?」
逃げられないように壁に手をついて、息がかかるほど近くまで、ずい、と顔を近づける。そのまま薄い心の臓の部分に触れると、仄かに人のぬくもりを感じた。
だが、老子はいつもの表情でしれっと答えた。
「いいや、まったく」
「…………」
確かに心拍数が上がったようには感じない。
予想通りなのだが、思わず申公豹は真顔になった。齢五千を過ぎる真仙に何を求めているのだ、自分は。人間界の生娘でもあるまいし、今更すぎるにも程がある。
きっと、長い時を生き、女?の夢を見続けて来た彼には、こういう経験は既に好奇心から外れた遠くの感覚であるのだろう。
「君はするの?」
「そうですね。私はいつでも、貴方に触れたいとは思っていますよ」
そのまま胸を撫でていた腕を這わせて、そっと頬を撫でる。滑やかな肌と煌めく翡翠のような髪の間に手を差し込むと、少しだけくすぐったそうに老子が目を細める。
「そう。私は引きもしないし、押しもしないよ」
「知っています」
「君の好きにすればいい」
ただこの関係を壊したくない。それだけで触れられずにいるのは事実だ。身体を繋げなくとも、今の老子は会いたい時に会いに来れる。それだけで今は満足であるし、充分幸せだとも思う。
愛や恋に、必ず身体を繋げるという行為が必要なわけではないだろう。でなければ、老い枯れた老夫婦が添い遂げる意味などない。
双方が行為を求めているのであれば申公豹は手を既に出していただろう。だが、老子自体が受動的すぎて、本当に触れていいのか迷ってしまう。申公豹は、老子を『自分の為』に抱きたくはなかった。「好きにすればいい」というのは合意に見えてそれとは違う。それを明確に理解しているからこそ、悩むのだ。
申公豹から見て、老子は大変に美しい生命体だと思っているが、おおよそ性的なものは感じなかった。いや、自分はそのような目で見ることができるが、神性はあっても彼を組み敷こう等と考える輩はいないだろう。
「老子は性行為はご存知なんですか」
ふと話題を変える。『そういう話』があれば、老子も人の子であったと考えを払拭できるかもしれないと考えたからだ。
「もちろん知っているとも」
それはそうだろう。長い生の中で、女媧の夢の中で、きっと様々なものを見てきたはずだ。色濃い男女の褥もあれば、略奪され嬲られ殺され無理矢理手篭めにされる女性や子供、他にも男性同士の交わりも見てきた事だろう。
と、思考を巡らせていたら思わぬ一言が飛んできた。
「私自身はやったことはないけれどね」
「は?」
おかげで思考が全て飛んだ。そんなまさかだ。五千を超える師が、例え仙人であっても経験がないなど、あるはずがないと思っていた。
「気配が驚きすぎだよ。そんなに不思議かい? 私は仙人としての修行を終えた後、早々に女媧の夢に入ってしまったからね。夢の中で様々なものを見てきたけれど、見たと言うだけで実体験という形ではしていない。元々、そういう欲は薄かったんだろうし、この歳で今更とも思うしね」
「……つまり、処女だと」
「私は女性ではないから、その言い方は正しくないけれど。しいて言えば、誰かを抱いたことも抱かれたこともないよ」
「………………」
「君のそんな驚いた顔を見るのは初めてだ」
「私、真顔だったつもりなんですが」
「元々、仙人の交配率は著しく低い。それは始祖の人々が、子をなす事で始祖の血を濃くし、能力を高める事を嫌ったためでもある。つまり仙人に交わりは不必要であり、私も行う事はなかった。ただそれだけのことだよ」
確かに、申公豹とて長らく性欲とは無縁だった。それよりも知識欲や好奇心の方が強かったし、長く生きていると益々性欲とはかけ離れていった。だが、気まぐれで娘も抱いたし、男を相手にした経験くらいはある。さして数は多くないが、ゼロではなかった。
「そうですか……」
「何か問題でも?」
「いえ……いや……その……少し考えさせてください」
「何を」
ダメだ。やはり勢いではダメだ。老子を少しでも傷つけて、その後に拒まれるのが怖かった。もう一度触れたい、交わりたい、そう思わせられる程の初夜でなければ。
まだ彼は諦めてはいない。だが、いずれ訪れる甘い夜は、まだまだ先のことだと認めざるをえなかった。
「もう少し、時間を設けましょう。でも、きっといつか……」
「君も難儀だね」
その日の師との会話はそこで終わった。
まさかの老子が処女!の発言に申公豹が慌てるだけの話を書きたかったようだ。
ますます老子の神性度があがって手が遠のくというワケ。
かわいそうだね。
私は楽しかったです。
老子が最高峰の神仙であるがゆえに、人であるけど人を超越してしまったがゆえに申老は難しいのだ。
……というところが面白いと思ってるので、まぁいいんですこれで。
今後も増えなさそうなので他人のかく話にありつけないのが致命的です。
うぐっ……
「こうやって顔を近づけたら、ほら……ドキドキとかしませんか?」
逃げられないように壁に手をついて、息がかかるほど近くまで、ずい、と顔を近づける。そのまま薄い心の臓の部分に触れると、仄かに人のぬくもりを感じた。
だが、老子はいつもの表情でしれっと答えた。
「いいや、まったく」
「…………」
確かに心拍数が上がったようには感じない。
予想通りなのだが、思わず申公豹は真顔になった。齢五千を過ぎる真仙に何を求めているのだ、自分は。人間界の生娘でもあるまいし、今更すぎるにも程がある。
きっと、長い時を生き、女?の夢を見続けて来た彼には、こういう経験は既に好奇心から外れた遠くの感覚であるのだろう。
「君はするの?」
「そうですね。私はいつでも、貴方に触れたいとは思っていますよ」
そのまま胸を撫でていた腕を這わせて、そっと頬を撫でる。滑やかな肌と煌めく翡翠のような髪の間に手を差し込むと、少しだけくすぐったそうに老子が目を細める。
「そう。私は引きもしないし、押しもしないよ」
「知っています」
「君の好きにすればいい」
ただこの関係を壊したくない。それだけで触れられずにいるのは事実だ。身体を繋げなくとも、今の老子は会いたい時に会いに来れる。それだけで今は満足であるし、充分幸せだとも思う。
愛や恋に、必ず身体を繋げるという行為が必要なわけではないだろう。でなければ、老い枯れた老夫婦が添い遂げる意味などない。
双方が行為を求めているのであれば申公豹は手を既に出していただろう。だが、老子自体が受動的すぎて、本当に触れていいのか迷ってしまう。申公豹は、老子を『自分の為』に抱きたくはなかった。「好きにすればいい」というのは合意に見えてそれとは違う。それを明確に理解しているからこそ、悩むのだ。
申公豹から見て、老子は大変に美しい生命体だと思っているが、おおよそ性的なものは感じなかった。いや、自分はそのような目で見ることができるが、神性はあっても彼を組み敷こう等と考える輩はいないだろう。
「老子は性行為はご存知なんですか」
ふと話題を変える。『そういう話』があれば、老子も人の子であったと考えを払拭できるかもしれないと考えたからだ。
「もちろん知っているとも」
それはそうだろう。長い生の中で、女媧の夢の中で、きっと様々なものを見てきたはずだ。色濃い男女の褥もあれば、略奪され嬲られ殺され無理矢理手篭めにされる女性や子供、他にも男性同士の交わりも見てきた事だろう。
と、思考を巡らせていたら思わぬ一言が飛んできた。
「私自身はやったことはないけれどね」
「は?」
おかげで思考が全て飛んだ。そんなまさかだ。五千を超える師が、例え仙人であっても経験がないなど、あるはずがないと思っていた。
「気配が驚きすぎだよ。そんなに不思議かい? 私は仙人としての修行を終えた後、早々に女媧の夢に入ってしまったからね。夢の中で様々なものを見てきたけれど、見たと言うだけで実体験という形ではしていない。元々、そういう欲は薄かったんだろうし、この歳で今更とも思うしね」
「……つまり、処女だと」
「私は女性ではないから、その言い方は正しくないけれど。しいて言えば、誰かを抱いたことも抱かれたこともないよ」
「………………」
「君のそんな驚いた顔を見るのは初めてだ」
「私、真顔だったつもりなんですが」
「元々、仙人の交配率は著しく低い。それは始祖の人々が、子をなす事で始祖の血を濃くし、能力を高める事を嫌ったためでもある。つまり仙人に交わりは不必要であり、私も行う事はなかった。ただそれだけのことだよ」
確かに、申公豹とて長らく性欲とは無縁だった。それよりも知識欲や好奇心の方が強かったし、長く生きていると益々性欲とはかけ離れていった。だが、気まぐれで娘も抱いたし、男を相手にした経験くらいはある。さして数は多くないが、ゼロではなかった。
「そうですか……」
「何か問題でも?」
「いえ……いや……その……少し考えさせてください」
「何を」
ダメだ。やはり勢いではダメだ。老子を少しでも傷つけて、その後に拒まれるのが怖かった。もう一度触れたい、交わりたい、そう思わせられる程の初夜でなければ。
まだ彼は諦めてはいない。だが、いずれ訪れる甘い夜は、まだまだ先のことだと認めざるをえなかった。
「もう少し、時間を設けましょう。でも、きっといつか……」
「君も難儀だね」
その日の師との会話はそこで終わった。
まさかの老子が処女!の発言に申公豹が慌てるだけの話を書きたかったようだ。
ますます老子の神性度があがって手が遠のくというワケ。
かわいそうだね。
私は楽しかったです。
老子が最高峰の神仙であるがゆえに、人であるけど人を超越してしまったがゆえに申老は難しいのだ。
……というところが面白いと思ってるので、まぁいいんですこれで。
今後も増えなさそうなので他人のかく話にありつけないのが致命的です。
うぐっ……
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