ひなさんの小説以下の小ネタを放置するところ ↑旧 ↓新
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
のどかな休日の昼下がり。小春日和で気持ちがいいし、今日の天気は明日まで陰ることはないだろう。
そんな中、森の中の花畑でピクニック気分にレジャーシートを広げている二人の青年がいた。
片方は「見られたら絶対笑われる!」と、当初は嫌がっていたというのに今ではすっかり寛いで、サンドウィッチを頬張っている青年と、にこにこ嬉しそうに水筒から温かい紅茶を注いでいる青年。
傍から見ると確かにアヤシイ。しかし、これは要するに……デートというものだった。
呑気にサンドウィッチを頬張っている男が「泣いている赤子もひと睨みで黙らせる」という噂(※ 流したのは本人である)の最強の闇の魔導師シェゾ・ウィグィィ。そして、その男に飲み物を注いでいるのが、煌めく星々の中で一等に輝く(※ と噂を流したのはシェゾである)彗星の天才学生魔導師レムレスだった。
先日、すれ違っていた心が向き合って、ようやく落ち着いたところだ。全くもって色々あったが、今ではすっかり互いに気を許している。本来、常に気を張りつめているシェゾも、レムレスの前ではこの様子だ。
「はい、シェゾ。どうぞ」
「ああ、悪いな」
会話に主語も述語もないというのに、レムレスの言いたかった事を察したシェゾは、さも当然といった顔で飲み物の注がれたカップを受け取った。そして一口。
「……レムレス、紅茶が甘い」
「あ、ごめんね。癖で砂糖を入れちゃったんだ」
「……」
それでも文句を封じ込めて、甘い紅茶を飲み干すのだから随分と丸くなったものだ。ちなみに彼の食べているサンドウィッチは、ジャムサンドとフルーツサンドである。隣にはホイップとチョコソースのサンドイッチもある。これはある意味拷問だ。
「そうだ、思い出した!」
「何がだ」
「ほら、前に君がね、甘いもの以外も食べたいって言ってたじゃない」
「ああ……」
あまりにも、レムレスが甘党だから耐えかねただけだったのだが、どうやら覚えていたらしい。
そもそも、シェゾも甘いモノが嫌いな訳ではない。そこそこイケるクチであるとは自分でも思っている。ただ続くと嫌なだけである。
「だからね、今日は塩っ辛いお菓子を試作して持ってきたんだよ」
「ほお、やればできるじゃないか」
「えへへ、ちゃんと美味しいならいいんだけどね。……はい! カレー味ポップコーンだよ」
そういって目の前に出されたそれは、しけらないよう密封された容器にたくさん詰まっている。カレー粉のスパイシーな食欲をそそる香りに、思わずクラッとしそうになった。暫くそういえば食べていなかった。この香りは久しぶりだ。
「なん……だと!?」
しかし、これはマズい。そう直感が告げていた。
「え? あれ、カレーは嫌いだったかな」
「違う! ばかっ! 早く隠せ!」
蓋を閉めさせて、即座に立ち上がる。そして周囲を見渡し、何時でも剣を抜けるように柄に手をかけた。
「ど、どうしたの? シェゾ」
すると、暫くして遠くから知った声が聞こえて来た。元気に上がる声、あれは……アルルの声だ。
「カーくん! 待ってよ! どこいくの~」
カーバンクルを追っているらしいアルルは、森の中から花畑に飛び出すと、すぐにレジャーシート上の男二人を見つけた。
「カーバンクル! それにアルル!」
「やあ、こんにちはアルル。少しぶりだね」
「あれ? レムレスにシェゾ? こんな所で何してるの?」
さぞ異様な光景だろう。アルルの疑問はしごくまっとうである。しかし、そんな質問に答えようともせず、シェゾは抜刀して構える。見つかった恥ずかしさなど今は考えている場合ではない。
「こっちへ来るな! 如何にお前と言えど、今日だけは許さん」
「え? え? 僕なにか悪いことしたかな。ごめんねシェゾ! でもカーくんが」
「いいか? しっかり捕まえてろよ!?」
そういった刹那、既に視界に黄色い物体はいなかった。
「シェゾ後ろ! レムレスが!!」
「ひゃあぁっ!!!」
レムレスの悲鳴が、空まで響く。
「しまった、レムレス!!」
振り向いた時には、既に遅かった。
「あああ、ごめんねレムレス! ほんっとごめんっ!!!」
レムレスは腕ごと、カーバンクルに食べられていた。
「やっ。あは、あはは……! くすぐったいよ~」
もにょもにょと不自然に動くカーバンクルの中で、くすぐったいのかレムレスが笑う。
しかし、最初の第一声の時点でキレている残念な人もいた。
「貴様ァ!!! ……お、俺の、俺のレムレスから離れろォォ!!!」
カーバンクルを削ぎ落とそうと切りかかると、カーバンクルは察知していたのかにょろりとかわす。口をもごもごさせたままのカーバンクルは、最後にレムレスの手をぺろんと舐めると、一目散に逃げ出した。
「あ、待て! 今日こそ許さんぞ、切り刻んでやる!!」
カーバンクルを追いかけてシェゾが走り出す。勿論ブーツも置いたままだ。
そしてその場には空っぽになった容器を片手に座り込んだまま唖然としているレムレスと、困惑している間に嵐が通り過ぎ去ってしまったアルルが残されたのだった。
「俺の……?」
「たぶん、僕の作ったシェゾ用のカレー味ポップコーン、が興奮しすぎて色々ごっちゃになったんじゃないかなぁ」
とりあえず取り繕っておくものの、なんとなく察しのいいアルルには無駄な気もした。よだれだらけになってしまった手を布巾で拭うと、元の場所へ座り直す。
「カレー味ポップコーン……? うわあああごめん、ごめんね! カレーはカーくんの大好物なんだよ~」
「あ~、そうなんだ」
「昔に色々あってね。他にもカレー好きな人が多いんだよ。気をつけてね、カレー作ったら狙ってくる人いっぱいいるから」
「そうなの? じゃあ、シェゾも好きかな?」
「うん」
「えへへ、なら良かった。またつくろう。あ、そうだ。良かったらカーバンクルとシェゾが戻ってくるまでゆっくりしていってよ」
広いレジャーシートには様々なお菓子や飲み物、サンドウィッチが用意されている。甘いもの以外が皆無に見えるが、あえてそこには触れず、アルルは一言お礼を言うと靴を脱いでレジャーシートに上がった。そこにはシェゾが居たであろう跡がある。
そういえば見つけた時から彼らは二人でいた。あまり詮索はしないほうがいい気もしたが、相手がレムレスなので、アルルはさり気なく抱いた疑問を聞いてみることにする。
「最近、レムレスはシェゾとよく一緒にいるよね」
「ちょっと色々あってね。前はそうでもなかったけど、今は彼のこと、怖くないんだ」
「仲良くなったんだ?」
「そう見えたら嬉しいね。はい、どうぞ。ちょっと甘いけど紅茶だよ」
紙コップに入った温かな紅茶が差し出される。シェゾもこれを飲んでいたかと思うと少し笑ってしまうのだが、それはそれで良い気もした。
「えへへ、ボクも嬉しいな。シェゾってほら、ちょっと変なところあるし、孤高な感じで友達もいないし、ボクばっかり追いかけてるし、恋人もいないし」
「何かひどい言われようだけど、否定できない……」
アルルにとっては古くからの知人といったところなんだろうか。何度も魔力を付け狙って戦いを挑んでいたという事だけは知っている。ただ、優しい彼女のことだ。誰かが幸せなところを見ると自分も嬉しくなってしまう。レムレスと同じでそういう性質なのだろう。
「だから、誰かを大切にしようとしてるシェゾ見てると、何だか和むよ。ボクが言うのもヘンだけど、これからもシェゾを宜しくね」
「うん、こちらこそ」
勘のいい彼女のことだ、この言い方は絶対に色々バレているなと思いながら、レムレスは笑顔を崩さす頷いた。
「あとレムレスのカレー、ボクも食べたいな~」
「いいよ、今度作ってあげる。お菓子ほど自信はないけど……カーバンクルの分もたくさん作るからね!」
「ありがとう! わーい、楽しみだな~!」
「ところで、帰ってこないね」
「だね、カーくんはああ見えてかなりの強運だから、たぶん大丈夫だと思うけど」
「見てきたほうが良いかな……」
「ダイジョーブダイジョーブ、ちゃんとそのうち戻ってくるから」
あっけらかんと笑って答えるアルルは肝が座っているなと思い直す。
シェゾも手加減くらいはしていると思いたいが、あれでも本当に強力な闇の魔術師なのだ。斬られていたらどうしよう。
そんな事を考えながら、穏やかな午後は過ぎていくのだった。
これは要するにオチが思いつかなかったというか、考えてたけど忘れたパティーンですね。
あと馴れ初めを完結させないと上げたくなかったというのもあってお蔵入りしてました。
仮題目は「おかしなカレー」だったんですが、おかしいのは私の脳みそくらいですね。この話。
個人的にアルルはレムレスに近い属性の優しさを持っていると信じているので
二人でお話ししてるととても空気が和やかで、書いてて楽しかったです。
シェレムの事もきっと応援してくれるって信じてる!(※妄想)
PR
最新記事
(12/27)
(12/02)
(11/21)
(10/02)
(06/20)