ひなさんの小説以下の小ネタを放置するところ ↑旧 ↓新
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「のう、ナッシュ。真面目な話なんじゃがな…」
「ん?何だ、急にかしこまって」
そこは小さな村はずれの宿の居酒屋だった。
外は肌寒いくらいの気温で、野宿するにはちと辛い。
しかし宿など選んでいられないナッシュ・ラトキエ37歳は、野宿を余儀なくされたのである。
そこへ偶然か何なのか知らないが、現れたのが既知の仲のある意味腐れ縁、シエラだ。
ありがたいことに、宿の同室を許して貰い、かわりに酒に付き合えと言われた。まぁ、この寒い中の野宿だと寝る前に体を暖めるために酒をとる。それと変わらないだろうし、もう少し美味しい酒も飲めるだろう。そんな安い考えで、暫く共にいることを決めた。
酒を飲みながら色々な話をした。最近どうしてるとか、たわいのない雑談を。
そこで、突如繰り出してきた話がこれだった。
「そろそろ、わしの僕にならんか?」
「へ?」
目が真面目なので冗談をいってるようには見えなかった。
しかし、一瞬返答に困ったナッシュは
「何、冗談いっ……」
「真面目な話と言うておろう?」
その真剣な目は真っ直ぐに彼をいぬいていた。
「おまえ面食いなんじゃなかったか?」
「そうじゃな」
「うわ、言いきった……。よくこんなオジサン、手元に置きたがるな」
「おんしじゃからな」
「何だそれは、愛の告白?」
「それ意外にどう聞こえる」
「普通、『僕になれは』告白じゃないだろ」
「わらわにしては、最大の口説き文句じゃ、永い時を共にするんじゃからな」
「………」
そこで、沈黙が流れる。
「う~ん、いきなりそんな事言われてもなぁ」
「急かさぬよ」
「あぁ、どうも」
考え込みながら酒を一口喉に流した。
不老不死と言うものに、それほど興味はなかった。長く生きてもっと色々なものを見たいとか、祖国の行く末を見たいとか、そりゃ思う。
しかし、不老不死になるかと言われればあまり歓迎できることじゃない。何故かというと……。
「一応、考えてはおくけどな……たぶん、否……かな」
「不明確な答えじゃのう。考える前から答えは決っておるのではないか」
「悪い。別にシエラと一緒にいるのが嫌とかそんなんじゃないんだぜ?」
「解っておる、妹君の事じゃろう?」
正解。
「ああ」
「アッサリ答えよって……妬けるのう」
「悪いな」
そう言って、ナッシュは最後の一口をあおった。
この男が素直に頷く事など、シエラは万一にも考えてはいなかった。
欲と言うものが、おかしいくらいに、ない。
権力も、財力も、愛にたいする欲も、力を望む欲も持っていなかった。
見える顔は、上辺だけ。
本心をついて話をしかけてやったら、そんなものは自ら切り捨ててきたと言っていた。
無欲だからこそだろうか、その真っ直ぐで明るい心に惹かれていた。
女はいつまでも女なもので、心に気が付いたら行動ははやいものだ。
押して押して押して……
しかし、彼は最後に必ず逃げるように退くのだ。
その言い草の代表格が、妹。
「本当に妹君が好きじゃのう、ええ年してシスコンとは……」
「おいおい、そんな風に言うなよ。否定はまぁ、しないけどな」
「………」
「俺はユーリが幸せになるまで、幸せになんかなっちゃいけないのさ」
「なんと、無欲なことか」
「俺が? って、俺しかいないか。まさか、欲だらけだ」
「どうせ、妹の幸せを願っているのが欲だとか言うつもりじゃろう」
「俺はユーリのために力を求めた。けどな、一人の力なんて、いくら求めたって大したことはないんだよ。
だから、俺は更に大きな力にユーリの庇護を求めた。
庇護を得る代償は、俺が働く事。理屈は簡単で、安いもんだろ?」
それの何処が欲望だというのだ。そう、言いかけてやめておいた。少し酔って、火照った顔でへらりと笑うものだから。
言ってしまうと、その顔が哀笑にかわるような気がして、シエラは口を噤んだ。
シエナスです逆じゃないよ!!!
うちのナッシュは一生を妹のユーリに捧げているという話。
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